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「生徒指導・特別指導はこうやる!    その1  〜事実確認編〜」


コロナウィルス感染防止のため学校は休校となり現場は混乱した状態が続いていますが、再開されるまでの間にこの「先生学」で先生としての役割の確認や準備をしていきましょう。


学校生活をする上で、ルール違反をした生徒に対して教員ならではの生徒指導をしなければならない時があります。今回はその「生徒指導」と、その中でも最も重い生徒指導となる「特別指導」についてもアドバイスします。

先生になるような真面目な人は、ご自身が学生時代にそういった指導を受けた経験もめったにないはず。(……私自身は「かなり経験した方」だと思います。お陰で学生時代のすべては教員としての経験値として現在役立ってます。苦笑)   

しかし、生徒は必ず何らかの問題を起こすものです。まだまだ子ども。先生が問題を起こさないよういくら予防しても必ず問題が発生するのが学校現場です。だから我々教員はそれに対処する知識と力と技術とを蓄えておかねばなりません。

生徒指導や特別指導を受けた経験のない先生は、初任校での経験がどうしても原体験として定着しがちです。またその学校がそこならではの甘い緩いなんでも許容してしまう指導が日常であったとしても「そういう程度のものなのだ」思い込みがち。ましてや経験の少ない先生ばかりで生活指導部の構成メンバーになったり、問題行動をしてしまう生徒が多くいる学年団になったとしたら、わからないことだらけ。「厳しい指導は苦手。私は寄り添うタイプの先生なのよね」なんて決め付けて逃げてはいられませんよ!  それはそれ。寄り添う一面も持っていながらも、先生としてしっかり指導できないと、それでは「先生」とは言えません。


そこで、今回は高校における生徒指導におけるオーソドックスな流れと特別指導について、特に学校現場における指導のポイントを押さえておきます。指導の流れに沿った形で3回に分けて助言していきます。私が長く職場としている「高校」を基準としてお話ししますが、小中学校の先生にも指導上押さえておくべきポイントなど、ぜひ参考にして欲しいと思います。

今回はその1回目「事実確認編」をアドバイスしていきます。



  生徒の生活指導レベル  


生徒が問題行動を起こした時の、教員側の指導段階について整理しておきます。


  先生個々の指導

……例えば、HR担任として。授業の教科担当として。部活動の顧問として。同じ学校の先生としてたまたまその場面に遭遇して(立番時の生徒の遅刻、授業妨害、生徒間の小競り合い、器物破損、暴言、定期試験監督時にカンニングを発見したときなど)。しかし、内容の大きなものは次の②③の段階に進む。

  グループでの指導

……例えば、学年の生活指導担当など複数教員で。あるいは同じ部活動の顧問全員でまとまってする場合など。対象生徒が複数であったり、根が深い問題であったりする時は複数で対応します。

  学年指導

……①②が複数回、同じ生徒によって繰り返される。または改善が見られない、指導に従わない場合。ここでは一応「生活指導部主任」の先生に概略を報告しておくと問題が大きくなった時もスムーズに対応してもらえます。それでも従わない場合は次の④の段階に進むのが良い。指導はより強く、より重くなります。

  生活指導部指導

……学校によっては「生徒部指導」とも。できたらこのレベルでは「当該学年が指導原案を作り提示」して生活指導部に方向性を伝えます。その生徒に日々関わっている回数も多いため学年の意見を示すべきです。また、この場合まで進んだ時は生活指導部主任の先生と「副校長=教頭先生」にも概略を報告しておきます。

生活指導部主任には、その後の会議や指導も学年からお願いするのが良い。即時的に事実確認と会議がやれるように学年主任から働きかけます。実はこの日程の調整は簡単ではありません。先生は常に皆忙しい。しかしながら生徒指導は「生もの」です。時間が経ってしまうと指導はより難しくなります。火急の問題であればその日の放課後はもちろん「昼休み」でもや緊急の会議を開くべきです。

  教頭・副校長による指導

……生活指導部による指導が複数回になったり、より大きな事例の場合。また「校長による指導にまでは至らない」と判断された場合の指導。当該生徒の指導が「学校長の指導では強すぎる」いわゆる次の⑥「特別指導では強過ぎる」と判断される時。学年の先生から生活指導部主任に主導してもらい副校長(管理職)による説諭、という形が多いと思います。

  特別指導

……学校長による指導。指導の期限はすべて無期が原則。場合によっては進路変更(義務教育ではない高校だと退学に相当する)も含む。例えば過度のいじめ、校内に被害生徒がいる大きな傷害事件や窃盗など。生徒指導上、その学校に過去の判例を基準とすることが多い。(当然、その基準については、時代や個々の事例に合わせて随時見直しは必要。)



    事情聴取・事実確認  


1)学校の規則と問題生徒の事例の確認

まず、教員間で「学校の規則・ルール」をざっと確認します。生徒指導は即時的に(かつ継続的に)行われることが大切なので、先生同士ですぐ確認します。

遅刻指導であればその生徒の日数。飲酒や喫煙など未成年としての社会上のルール違反の内容などわかりやすいものから、生徒から相談され発覚したいじめと思われる内容まで。現在圧倒的に多いのは生徒のSNS上でのトラブルでしょう。(その指導についてはまたあらためて取り上げます。)


2)やり方

まず、この「やり方」をしっかりしておかないと後の指導に支障が出ます。ポイントを挙げておきます。重い指導の時ほど必ず以下のやり方で。


「別室」

他の生徒から見られない場所で。緊急時以外、教室や廊下、職員室も避ける。他の生徒の目に付く場所だと、当該生徒も強がったりして余計な言動を加えがち。また教員側も生徒に対して言動を威圧的にしてしまいがち。双方にとって良いことはない。相談室や面談室、小会議室など、教室から離れた落ち着いて話せる場所へ。


「スマホ預かり」

ここで、他の生徒とのつながりを遮断する。これを忘れてしまう先生は少なくない。実はここがかなり大事です。スマホ依存の生徒ほど嫌がることも多いので先生側から「スマホ持ってる?(持ってなかったら先生も付いて行って教室から持って来させます。)まず電源切ってもらっていいかな」と生徒自身で電源をOFFにさせます。すぐ指導が終わらないような内容の時には「学校のルールで決まってるから先生がいったん預かるぞ。先生は見たりいじったりしないから。いいか?」とあくまでも「生徒の了承」を得ます。「自分自身にやましくなかったら、あるいは反省しているなら預けなさい」と伝えます。ここでこじれると厄介。

また万一預かりを忘れたり、本人にすぐ返してしまったら、事が大きければ大きいほど周りの生徒と繋がって口裏を合わせたり証拠隠滅を計画したりするものです。そうなったら疑わしき真実も闇の中へ。


「複数教員」対「生徒個人」

教室で授業中に、とか、先生の目の前で過失による器物破損、などは個別指導になりますが、それでもその後にはあらためて生徒を別室に呼び出して事実確認をします。

事実確認は、先生は必ず「複数」で。授業中でその学年の先生がいない時はどんな先生でも構いません。職員室にいる先生に声掛けして協力してもらいます。別室に帯同してもらい、いてもらうだけで構いません。(その生徒のことを知らない先生でもいい。「学校の先生」はどんな先生でも、その学校の生徒全員の先生ですから。)

あとで「言った、言わない」「言わされた、脅された」など無いようにします。ここに複数の目で見て対応した「説得力」を作っておきます。

複数生徒による問題行動であれば、生徒は「一人ずつ個別」に対応します。すべてスマホ預かりをした後に、個別に。担当できる教員が授業や会議などで足りない時は別室で「待機」させ「時間差」で行うなど工夫を。

生徒が複数のまま対応すると、彼らは仲間がいることで強気になったり言い訳が誇張され必要以上に正当性を主張することもあり厄介です。また「被害に遭った生徒」や「相談してくる生徒」がいた時も同様に個別に対応します。被害者意識を集団で膨らませないようにするためです。


「事情聴取」

複数の教員で聴き取りをします。生徒にはすべて具体的に話すように伝えます。そして必ず「メモ」を取ります。この時点では手書きで。あとで必要であれば文字に起こしてプリントにします。

事情聴取のポイントは「冷静さを保つ」です。

先生は常に冷静に。怒鳴る、怒るなどはNG。当該生徒にも冷静に振り返るように指示します。生徒がキレても泣き叫んでも、待ちます。そんなことで揺さぶられているようでは先生として、生徒対応のプロではない。指導に繋がる重要なポイントも聴き出せない。

よく男性の先生の中には女子生徒の涙やその姿に「引っ張られてしまう先生」も見受けられます。特に「見た目かわいい女子生徒」に。笑    でもね、そういう先生を見ると我々ベテランはこう思ってます。「あー、経験ないんだなぁ。生徒が反省した自分に陶酔してんの見えないのかなぁ」とか「何やってんだよ、教員なのに。一緒になってウルウルして。そんなんで騙されてんじゃないよ。演技でしょ、どう見ても」とか「この子が泣き終わった後に、どんな風に指導に持っていくか先生として今考えている?  次に掛ける言葉は頭の中で選んでる?」とか。……すみません。言葉が少し過激でした。本音が出ました。笑   

生徒対応は冷めて俯瞰してできないとダメ。授業や部活動でも行事でもそうですが、感情や勢いだけでぶつかると先生自身があとで痛い目を見ます。子どもたちはよく見てますよ。そして先生がどんな風に何を話したか、よく覚えているものです。


生徒に事実確認をする上でもうひとつ大事なポイントを挙げると「嘘や隠し事はしないこと。自分にとって都合が悪いことでもすべて話すこと」を最初に約束させることです。

私がよく使っている決め台詞があります。

「やってしまったことはもう元には戻らない。もし1パーセントでもお前に非が無かったら別だ。人を勘違いしてたり。そうだったら先生たちはお前を全力で守る。でも、やっぱりそうでなかったら、1パーセントでも良くない部分が自分にあったのなら反省してやり直した方がいい。そう思わないか?」

「すべてを話して欲しい。今のお前を信用するから。万一、お前の言ってないことが後から発覚した場合、先生方はもうお前のことを信用できなくなる。お前を庇えなくなってしまう。もううちの学校の生徒として守ることはできなくなってしまう。(……場合によっては警察に引き渡すことがあるかもしれない、裁判になっても勝てない、などと生徒にだけは大げさに伝えます。)だから、全部言って少しでも早く解決に向けていこう」と「その生徒の味方」であること(……被害生徒がいた場合は別。)と「解決に向けて早く動いてやるから協力しなさい」という部分を見せること。

また伝える際も、「どうして〇〇したんだ!」「〇〇しちゃダメに決まってるんだろ!」「お前のしていることは犯罪だ」などと怒鳴ったり強い口調で言うのはNGです。我々は取り調べをしたりする警察官ではありません。その生徒はすぐにシャッターを下ろして、大事なポイントを隠したり他の先生を求めたりします。今の子どもたちはそこまでバカじゃない。いろんな大人のことも冷静に見ているし情報もあるので、自分の起こしたことの結末の損得や、自分の今後について必ず考えています。先生の方から「やらかしちゃったんだから、もう一緒に反省していこうじゃないか」という先生の姿勢を表明する方が得策です。


「反省文」

事情聴取をもとにその内容をより詳しく当該生徒自身に書かせます。内容は「事実経過」とそれに伴う「反省」についてです。複数生徒の場合はその都度別室で行うことになります。漫然と「反省文を書け」と言っても子どもたちは構成力も文章力もないので書けません。(また、こういうのを書けない子ほど、学校生活でつまらない問題を起こしがち。笑)書かせる内容はどんな生徒指導においても、常に以下のことです。

〈反省文の内容〉

    いつ、どこで、誰と、何をどうしたか

    その時はどんな気持ちでいたか

    そして今どう思っているか

    今後どうしていこうと思うか

    →  すべて具体的に。時間や教室名も正確に。動機についても自分なりに深く掘り下げて書く。


〈その際にあらためて伝えておくポイント〉

*1  「お前の気持ちをすべて吐き出して欲しいと思っているわけではない。してしまったこと、それが周囲に掛けてしまう迷惑や心の傷について考えて書くように」と伝える。

*2  「反省文に書いてある内容について、本当に反省しているかどうかは質も量も問われるよな。口で謝るのもゴメンのひと言で済ますのと、いろんなことしてたくさん謝るのとでは印象は違うよな?  ましてや、お前のことをふだん教えてなくてよく知らない先生もこの反省文を読むからな。そういうことも考えて書いた方が良いよな」と伝える。

*3    複数の先生が読むので、できるだけ「丁寧に読みやすい字」で書くこと、文字も「濃く」書くように伝える。現代っ子はスマホ文化。書くのが苦手で字も汚い。(その後、その反省文をコピーして複数の先生で読む。その時に字が薄くて読みづらくならないようにあらかじめ指示します。)


「証拠」

証拠については自白して反省を自ら綴った「反省文」が第一になるのは当然ですが、物的証拠も押さえておく。被害生徒がいた時にはその物品も借ります。

また昨今は便利な世の中になりました。証拠は先生の「写メ」つまりスマホで写真に撮っておく。視覚的な資料は会議などでもわかりやすい。

器物破損の状況。これは複数枚。用務主事さんや業者の方が直してしまう前にその状態がわかるように。

SNS上のトラブルに関しては、生徒から情報提供してもらって、その問題となっている記事内容をすべて「スクリーンショット」で撮り、先生のスマホに保存し関係する先生たちで共有します。インスタのイジり写真や文章だろうと、裏アカだろうとサブアカだろうと、です。

また傷害を受けた生徒がいた時には、その傷なども写真で証拠として撮っておきます。


3)学年の先生との共有


●指導の開始(生活指導上において軽微なもの)

事実確認と生徒本人の反省文をもとに「指導の内容・方法と期間と見通し」を立てます。この時点ではあくまでも見通しです。反省の度合いによって指導の完了・解除は変わってきます。

生活指導の面でベテランの先生やその学校での指導が長い先生に確認しておく。そういう後ろ盾は貴重です。私自身もそういう先生方に「持って行き方」や「落としどころ」などたくさん教えていただきました。良いアドバイス、現実的な解決方法が必ず有ります。


1)指導内容

以上の原案をもとに、当該生徒への指導に入ります。

(ここまでは準備段階です。)

①先生個々の指導、②グループでの複数教員による指導、③学年指導、それらについては関係する先生方で再度方向性と期限を決めて、実際に生徒をあらためて呼び出し指導に入ります。軽いものなら例えば、掃除の当番以外もヘルプで一週間とか、今週は毎日「日直」とか、遅刻が多い生徒は「早朝登校指導」とか「ボランティア清掃」など、当該生徒のやったことで他の生徒の目にも触れるペナルティーを課します。それは同時に周囲の生徒が彼らの反省度合いを観察することにもなり、周囲の生徒へ「やらかしたら、悪さをしたらこうなるよ!」という強い「抑止力」にもなります。

そして指導対象の生徒の「部活動顧問に報告」しておくと対応が丁寧だと思います。その後顧問の先生はすぐに部活動に参加させていいのかどうかも話し合います。部活動によっては別途ペナルティーを課されることもあるでしょう。私は本人に帰属意識や所属集団への責任感を感じさせるという意味でも、部活動は指導を共有して本人にわからせ、部活を逃げ場にして愚痴や不満を吐かせたりすることなく、逆にみんなで立ち直らせる場としても不可欠なものだと位置づけています。


2)保護者連絡

また①〜③の比較的重くはない指導の場合でも「保護者連絡」は指導したその日にすべきです。生徒本人からも自分の口から説明するよう約束します。と同時に保護者に連絡する旨も生徒本人に伝えます。子どもはズルい一面があり、自分の都合の悪いことは極力隠します。また事実をほんの少しねじ曲げて、自分に同情される余地があったかのように話します。残念ながらそういうものです。心から信用してはいけない。先生自身の口から直接電話で感情を込めて伝えます。そして「お父さんお母さんもお忙しいとは思いますが、ご家庭でも指導のほどよろしくお願いします。ともに〇〇さんの今後のために見守っていきましょう」と伝えます。「ともに、一緒に」を常に強調し、上から一方的に指導をしている(……実際はそうなんですが)ような印象を与えずに話した方が、事実その後も関係はうまくいきます。


3)より重たい生徒指導案件

しかし、生徒・教員の双方が納得してすぐ指導に入ることができる種類のものと、そうはいかない種類のものとがあります。その種類とは「程度」であったり「内容」であったりします。より重い④生活指導部による指導、⑤副校長による管理職説諭、⑥校長にも出てもらう特別指導、などの場合には、次に「臨時の会議を開く」「校長による申し渡し」など細かな手順を踏むことになります。



そのやり方と流れについては次回にしましょう。

次回、第2回「生徒指導・特別指導はこうやる!は「臨時会議」の開き方と「申し渡しのポイント」などを示していきます。お楽しみに。