「スマホ依存の生徒の指導はこうやる!」
今回のテーマは、これまた現場の先生方から要望の多かった「生徒のスマホ依存によるトラブルとその指導について」です。長期休業中や連休中にスマホ漬けになり、すっかりモラルもマナーも吹き飛んでしまった子どもたち。新学期がスタートしても学校生活が再開しても、その意識を切り替えられる子ばかりでは無いはずです。その現状、対応の際の指導の基準について、その依存度の高さにより現場で我々教員がどう関わっていくべきなのか。我々教員の考え方の根本は何なのか。
おそらく今後も何度となく繰り返される生徒のスマホ使用のトラブルと指導。現状とそれに起因する問題点については、より細かくより専門的な分析の結果なども専門サイトで調べればありますがそれに関してはまず一般的なものを押さえておく程度にとどめ、今回の主眼も教育現場における生徒指導、いわゆる先生としての具体的対応を中心に提言していきます。
★ 生徒のスマホ依存の実態 ★
高校生になってから依存度の高くなると言われているスマホ。実際、中学校では持ち込み禁止のところがほとんどですが、生徒が本当に持ち込んでいないかどうかは怪しいところ。特に下校後に直接塾や習い事に行く子どもたちは親との連絡手段でもあり通学カバンの中に潜ませています。日常生活においても、今や風呂ばかりか、なんとトイレに持ち込む物の30.9パーセントがなんとスマホ。一時的にも手放すことすらできなくなっている。インターネット社会を彷彿とさせる現状には驚くばかりです。
10〜17歳を対象にした内閣府の調査結果(平成30年度「青少年のインターネット治療環境実態調査」)によると、インターネットの利用率は全体で93.2%で、学校別だと小学生85.6%、中学生95.2%、高校生99.0%。男女で差は見られません。平日の平均利用時間は168.5分。2時間以上利用している青少年は61.5%、高校生の4人に1人が5時間以上とかなり長時間利用していることがわかります。(……これ、しかも学校のある「平日」の利用時間ですよ!)利用内容は、大人のそれとほとんど変わりません。動画視聴78.6%、ゲーム76.4%、メールやソーシャルメデイアなどコミュニケーションが65.5%。
昨今はこのネットの過剰使用が問題視されています。いわゆる依存症にまで至ることがある。(あらかじめ確認しておきますが、当然スマホ自体に罪はなく便利なツールでしかありません。そこは我々も勘違いしてはいけません。要は付き合い方。)スマホ使用の傾向では「検索」などは依存症に繋がることはほとんどなく、以下のようなものが生徒の使用頻度の高いものとなっているようです。
・ゲーム(……暇つぶしが目的でもついつい時間を費やしてしまう。ツムツム、モンハン、人狼が今は人気か。)
・LINE、インスタ含めSNS(……LINEは友達とのやり取りがほとんど。ハブられたくない意識から終われない。インスタ同様に写真のアップなども日常的。)
・YouTube、ニコニコ動画の視聴(……お気に入り動画の保存と繰り返しの視聴。紹介された関連動画の視聴。)
・コミックの閲覧(……話題のコミック、あるいはお気に入りの漫画家の作品を読み続ける。)
その中で最も依存性の高いものが「ゲーム」です。ゲームには注意が必要です。自分のスコアのため、歩きスマホでも続ける者も少なくない。その弊害として、軽度なものでも、眼精疲労、ドライアイ、近視の進行、時には斜視にまで。幼児期からの使用過多の場合、脳の発達や言語能力の習得にも影響するとのこと。ゲーム障害では、朝起きられないといった「睡眠不足・睡眠障害」がほぼ100%に見られ、ひどいと昼夜逆転の生活、遅刻・欠席の増加、それに伴う成績低下、ひきこもり。さらに高校生であれば留年決定、退学へ。長期休業中だと食生活の不規則から低栄養状態や、逆に運動不足と食べ続けから肥満や脂肪肝になるケースまである。
さらに深刻なのはゲームを止めさせようとする家族との関係悪化、暴言や暴力に至るケース。また大量の課金から借金をして家族の生活が破綻してしまうことも。日常生活に支障が出る、どころではなく社会的な問題になってしまうのです。悪化しているケースでは診断結果が出て治療に入ることもありますが、それより大切なのは子どもたち本人も依存症の正しい情報と知識を持ち、関わる家族や学校の先生方もネットやその利用機器であるスマホと常識ある付き合い方を実践し、子どもたちの「予防」を促していくことだと思います。
★ 呼び掛けとルールの周知徹底 ★
1)校内のルール作りと教員側の共通認識作り
まず、授業、ホームルームにおけるスマホ使用の原則禁止を教員レベルで確認し共有します。(先生が授業で活用を促す場合を除きます。自分も担任クラスでは行事や奉仕活動の後のポートフォリオに記録を残す時などスマホ使用をOKにしたりします。)
また学年集会や生徒総会、始業式、終業式など式典においても、持ち込みはNGにしている学校がほとんどです。でも、我々が「そんなの持ち込まないのは普通でしょ」と思っていても、生徒の常識は我々から見る非常識。いつ、どこにでも持ち歩きが日常です。
また「今までそんなに細かく指導してこなかったんですよー」という学校であれば、あらためて生活指導部と学年が連携して中心となり、学校全体で「スマホのマナー呼び掛け指導」をしましょう。このことは他の生活指導と同様ですが、共通認識を持って対応するようにしないと後々面倒なことになります。「〇〇先生は指導しない。見逃してくれた」というケースが生じると、生徒は自分のルール違反を棚上げして叱られない抜け道を探します。そうなると正しい指導をしている先生が損します。そうならないために生活指導に緩い年配の先生や、生徒に寄り添うことを甘やかすことと勘違いしている若手の先生などに早めに理解してもらう。
管理職や学年主任も同席する職員会議の時に生活指導主任からみんなで足並みを揃えて一緒に指導していくことを伝えてもらい、配布プリントにも文字として残して確認した跡を残すこともポイントです。
2)生徒への呼び掛け
① 対生徒に対しては、始業式などでの生活指導部主任からの呼び掛け、各学年の学年集会での呼び掛け、ホームルームでの担任からの呼び掛けです。「歩きスマホ」「ながらスマホ」についても、見かける度にその都度注意します。「次発見したら没収し指導だぞ!」と先生みんなが言うようにする。
② より強力に説得力を持たせるなら「専門家」を呼んで講師としてスマホの害についての「講演」をしてもらう。定期考査後の「総合」「人間と社会」の時間などで学年単位や学校単位で実施する。これは講師の紹介した事例や内容がほぼほぼ生徒の日常とかぶるので、一時的とは言え危機感を持ちます。そのため子どもたちも我が事のように振り返り「ヤバっ」となりますね。また警察にお願いするとさらに話を広げてネット被害も含む生徒児童向けの講演を学校まで出向いてしてもらえます。講演後にはワークシートや感想文を書かせます。生徒にとってスマホは今や一番身近で離せない存在。講演の効果は確実にありますし、その後我々教員もその時のことをあらためて伝えた時にも、生徒は思い出すはずです。
3)生徒会の活用
また当事者意識を持たせるために責任逃れをさせないためにも生徒会の役員から生徒会新聞の発行や昼休みの校内放送での呼び掛けなどもテクニックとして大事ですね。当然、生活指導や生徒会担当の先生にあらかじめ協力を求めて。生徒たちに選ばれた生徒会側からの働きかけに意味があります。
プラスアルファで生活委員、庶務委員などを活用します。彼らは日常あまり仕事がないはず。登校時の立番挨拶や自転車駐輪立番などを輪番で行う中で、生徒から生徒への呼び掛け指導をさせるのもいいでしょう。「歩きスマホやめましょう!」「イヤホン運転(スマホに入れた音楽を聴いてますよね)は危険です!」などなど。
★ ルール違反発覚時の指導 ★
1.1回目
中学校であれば禁止されているのに持ち込んで使用した時。主に進路決定後の中学3年生の3学期。高校であれば、まずタガが緩んだ1年次の2学期あたりから見つけることが多いでしょうか。発覚時に即座に没収し取り上げ。理由は一応聞く。家族に何かあったなど、緊急性があるかどうかは確認しておく。(…でも、ほとんどそれは無いです。笑)
① スマホは下校時まで一時預かり指導。
② 反省文400字。
反省文の作文の内容も指示をするといいでしょう。反省文もきちんと書けない生徒が少なくない。あるいは適当にとりあえず書くだけ。ですから、私の学年の場合は以下のような感じで当該生徒に指示します。
⑴いつ、どこで、どんな状況で、何のために使用してしまったのか。詳しく細かく。
⑵その時はどんな気持ちだったのか。
⑶今、指導を受けてどう思うか。
当日の「日付と時刻」も本人のクラス番号、氏名とともに書かせます。
2.2回目以降
この場合は、指導も重くなります。
③ スマホは朝から没収、一日預かり指導。
④ 保護者に電話連絡。
⑤ さらに反省文800字。
この⑤の反省文については、上記の⑴から⑶の内容に、プラスして
⑷今後どうしていくのか。先生方に約束させる。
⑸保護者から一言。署名付きで。
⑸については、生徒の書いた反省文のコピーをいったん本人に返却、帰宅後に保護者に一言書いてもらい翌日登校時に提出。反省文は情報の共有のため学年の担任団や生活指導の先生にも回覧しチェックを受けます。③の当該生徒のスマホ提出については、電源オフの状態で職員室で下校時に本人に戻すルールにします。スマホ中毒の生徒にはこれだけでもダメージが大きいものです。
3.2回目の指導を受けたにも関わらず、またやってしまった場合。
⑥ また反省文800字。
⑦ 再度、保護者へ電話連絡。時には保護者呼び出し。
⑧ スマホを「一定期間」校内預かり指導。
一定期間、上記の登校時スマホ手渡し提出の指導を課す。例えば5日間、あるいは一週間など。保護者も同意のもとで登校時に預かります。
没収した当日は先生からは「複数回繰り返して違反行為をしている。信用ならない。返却については、学年の先生方が全員お前のその後の反省度合い次第。納得したらだぞ」と伝え、当該生徒を不安にさせます。笑 下校時に職員室で本人に戻す時に「明日からの朝の提出義務を約束したら、返却する」旨を伝えます。
保護者の方もほぼ全員が、ふだんから言うことを聞かずスマホ漬けになっている我が子が指導されてスマホを取り上げられるので、こちらには謝りながらも「全面的に協力」してくれます。笑
これら指導の流れも、学年単独でなく学校全体で決めておくとさらに逃げられないルールになり(つまり「みんな同じ指導の中で学校生活を送っているけど」と先生方は全員言えますよね。)そのため説得力も増します。
★ スクールカウンセラーとの連携 ★
学校側の指導に乗ってこない、あるいは保護者の協力があったとしても、わずかな時間もスマホを手放すことができず無意識的に操作してしまう、いわゆる「スマホ中毒」重症の生徒に対しては、スクールカウンセラーや専門医を紹介することになります。
相談室でのスクールカウンセラーとの面談は、本人ばかりでなく保護者も予約した上で同席して行います。担任は同席せず後でカウンセラーから文書の提出と内容の報告を受けるのでもかまいません。現在の状況、特に家庭での様子、それによる弊害も共有して対応していく。つまり、担任とあるいは発見した先生と本人の問題に留めず、本人と保護者、発見した先生、担任と学年団、スクールカウンセラーとできれば養護教諭まで広く情報共有して、指導する体制にする。
ゲームの課金などで多額の借金しているなど保護者も指導できない状況が重たい場合は、管理職にも報告する。それ以上だと保護者のDVや、当該生徒の引きこもりや家出などに事態が発展してしまい、その後児童相談所にお世話になることも。もう学校生活どころではなくなります。そういうことが起こりうることも、担任の先生から保護者には伝えておく。最悪の場合は、専門医の受診をし、入院して治療ということもあります。これも決して大げさに言っているわけではありません。それだけスマホは、特にゲーム障害は、中毒性が強いのです。
★ 指導上、押さえておきたいポイント★
このことは「遅刻指導」でも同様のことが言えますが、授業中にもかかわらず我々教員も生徒も予期せず指導をせざる得ないのだから、「真面目に授業を受けている生徒たちの進行や理解を阻害している」ということ。生徒個人の問題だけではないということです。つまり「授業妨害」。そのことを本人にも保護者にもはっきり伝えておくべきです。
このことは生徒や保護者ばかりでなく生徒指導に関して緩い教員にも、徹底して認識させるべき。若手の先生方も覚えておきましょう。「いちいちうるさいなぁ」「関係ないじゃん」とか「そんなに細かいことまで」なんて生徒にも教員にも言わせてはいけない。それを言えない教員は何と言って指導するかというと「ルール違反だから」に終始してしまう。教員から生徒に対して上からの圧力だけになってしまう。時には必要かもしれませんが、あまり良くない指導です。我々教員は、生徒本人が社会に出てからではなく、社会に出る前に常識を教えることこそが仕事。常識を持って活躍できる人材育成をすることこそが大事な使命なのですから。「授業をしている先生と、受けている生徒に迷惑をかける行為をしたんだ」ということを言わずして指導してはいけません。そこが常に生徒指導の肝です。
しかし我々だけでは到底生徒のスマホ依存を変えられない。24時間学校で生活はしないから。我々が生徒のスマホ依存を変えられたとしても、厳しい指導をしている時や彼ら自身の受験時など。その時だけです。学校を離れた所まで我々が見ていることもできないしその義務もない。だから、保護者の方こそ日常指導できる大切な大人。家庭生活では保護者にこそ指導の全責任があります。(……まあ、個人的には、高校生ともなれば生徒自身の自律的な意識や姿勢の問題だとは思ってますけど。)
かと言って、今のご時世、保護者にすべて責任を転嫁してるだけでは、うまくいかない。先生方と保護者の方とが「車の両輪」として子どもを見ていくことを示しましょう。それでも、ご家庭での指導については当然保護者の方々に責任を持って指導してもらうしかありませんが、意識だけでもお互いが無責任にはしないように、そして諦めないように。大ごとになる前に報告し合う。本人にも保護者にも声掛けしていきます。
(終わりに)
我々教員も時と場合によっては、調べたり生徒への連絡の手段として活用するスマホ。スマホ自体は非常に便利なツールです。スマホに罪はまったくありません。私たちは社会人として常識ある立場として使用しているはずですし、そうでないと職業柄さらに上司である管理職や教育委員会から指導が入ってしまいます。まあ、そんなことがなくても、我々は状況判断して利用しているはずですよね。
しかしながら、生徒たちは身体が大きくなってもまだまだ周りも見えず、どうなるか先も見通すことができない。ゲームは途中でやめたくないし、着信があれば我慢もできない。反射的にスマホに触ってしまう「子ども」です。それだけ魅力を感じさせるツールなのでしょう。そんな中で我々が子どもたちに伝えていくべきことは、生徒として当然やるべき「義務」を果たして、ルールを守って学校生活を送ること。それなくして個人のスマホ使用という「権利」を行使することはできないのだ、ということです。そのことを年度当初ばかりでなく事あるごとに生徒、保護者にもしっかり伝えます。
さらに、個別の指導時には次のように伝えます。
「先生も目くじらを立ててお前たちのことを見張ってるわけじゃないよ。見つけたことで給料が上がる訳じゃなくて、かえって面倒なんだ。でも、ほっといたり見逃したりすることをしてはいけないのも先生としての仕事。したくない余分な仕事が増える。それでも、常識ないままで次の進路先や社会に送ることはできない」と未来志向的な話もします。
また「それに授業妨害になって、あるいはマナー違反になって、実際に他の生徒や保護者からクレームが来ているんだ」と現状認識もさせます。
多くの大人があなたを正しい道に導こうとしている、そのことを繰り返し、いろんな先生やカウンセラーの先生から、そして当然保護者の方々からも伝えていく。学校でも、家庭でも。そして、何度でもです。
スマホ使用に伴って「ネット上の生徒同士のトラブルやいじめ問題」、このことも最近では急増していますね。このことも指導のやり方やポイントがあります。その対応や指導についてはまたあらためて。
コメント
コメント一覧 (2)
先生方がこんなにきちんと対応して下さるのかと驚きました。有難い事だと思います。
家では諦めていましたが、やはりお互い冷静になってルール作りをしてみようと思いました。
龍之介
がしました