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「生徒の学力別特徴と対応上の注意    その3    〜学力上位編〜



今回のテーマは前回に引き続き「生徒の学力別特徴」をもとに、我々教員側の生徒指導上のポイントを押さえていく「生徒の学力別特徴と対応上の注意」について。3回目にして最終回「学力上位編」です。少々長くなりますがお付き合いください。


  学力上位の生徒の特徴  


この層の生徒は、教員側から見ると指導しやすく問題もない、いわゆる「良い子」に見えます。ゆえに、我々教員もそれより下位の生徒に関わる時間を取ることが多くなりがち。生活指導も進路指導も心配無いだけに「放ったらかし」にしてしまうことが少なくない。しかしそれでは「先生」とは言えない。我々ももう少し関わり方を考えるべきでしょう。


学力上位層の生徒は子ども本人ばかりでなく保護者の見る目線もシビアです。実績がある先生はある意味「楽な」部分もあるでしょう。でも、口先ばかりで高圧的な態度でいたり、借りてきた言葉をただそれっぽく伝えても、見透かされます。

また正直に先生自身が経験があまり無いことを吐露してしまっても、生徒・保護者も(人間的に馬鹿にすることなどは本当にまあ稀でしょうが)彼らの心の中で一線を画することはまず間違いありません。

つまり、我々の経験値(教員としてばかりではなく)や、その伝え方・表現までも日々試されますし測られます。まさに「人間力」が見られる中で付き合っていくわけです。そう言われてもこちらも生きていれば成功体験ばかりではなく失敗することや試行錯誤は当たり前。それでも彼らから求められる先生像を考えると、我々には日常から感性を磨くことや外に向けて表現することが求められます。それでは、我々教員はどんな対応ができればいいのか。


  →  あくまでも私見になりますが、私の経験上では下記のように取り組みました。

①まず、自分の失敗した過去は原則言わない。必要の無いネガティブな情報は出さない。

②生徒との関係上、自分の明らかなミスであれば「ごめん、先生が間違ってた!謝る!」とすぐに謝罪や訂正をしてしまう。どの学力層の生徒に対しても当然そうするべきですが、この層の生徒には特に誤魔化しが効きません。

③「課題設定問い掛け」型の指導を中心にする。どんなプロセスであれ、ちょっと先に「大人」になった者として、我々なりに見えているものもありますよね。生徒に対してはあえて答えを示さず「問い掛け」をすることで、ステレオタイプな価値観ではなく、より深く考え物事や人生を見つめ直すきっかけにもなるのではないでしょうか。

我々教員側からは、その子の状況に応じて上質な問い掛けや含蓄のある言葉を、タイミングよくピンポイントで投げ掛けられる、そんな資質も持ち合わせておきたいものです。

さっそく学力上位層の生徒の特徴について見ていきましょう。


  偏差値65くらい  


◯「勉強は当然するべきものだ」と普通に思っている。大人に叱責されたからではなく自ら勉強はする。必要なことだと思っているから。大人の言うことも聞き優秀なので、先生は安心してみていられる。運動能力の高い者もいて、モチベーション高く日々継続して取り組める。運動の苦手な者は、芸術分野において特に秀でている者もいる。

座学の授業や科目は嫌々やらされてるわけではないので、切り替え継続して学習できる。

成績も平均以上を取るのは当たり前。だがその理由は「小さい頃から要領よく点数の取り方を身に付けている」ため。

得意科目があり突き抜けた成績の科目がある。この層は、逆に「苦手な科目」もある。5教科以外でも芸術や保健体育など実技科目でも苦手なものがある。例えば、体育の陸上や球技は得意でも水泳が苦手など。

また苦手科目、本人にとって受験科目ではない科目をあっさり捨てる。

人に対して時に「皮肉を言う」。皮肉もグサッと刺さる表現をする。

  →  できていることは個人的に一対一でしっかり具体的に褒める。「でも自己完結せず、苦手な科目や苦手なことにもチャレンジしてみようよ」と声掛けしましょう。その得意で無いことに挑戦した彼らをしっかり見ておき、後でみんなの前でその挑戦を褒めてやる。成長の跡までも褒めてやれば本人の自信にもなり、見ていてくれて評価してくれた先生との信頼関係もできます。


◯明朗活発。温和で優しく友人も多い。「自分の考えと違うな」と思っても、周囲の雰囲気を見て折り合いがつけられる。

基本的生活習慣がしっかりとしており家庭での学習習慣ができている。スマホは依存にはならない。連絡中心。あるいはツールであることがわかっている。スマホの接し方もコントロールできる。塾や予備校、学校の先生と良い関係が築ける。時に前夜の勉強が原因となり寝坊して遅刻する。笑

小さな頃から親に習い事をさせられる。スポーツ、ダンス、水泳なども多い。継続して続ける。読書の習慣と環境は親からもたらされている。年齢が上がっても、知的好奇心から読書する。

  →  一部の独善的な生徒を除けば、「生徒間の相談役」などにもうってつけの生徒ばかり。原則なんでもそつなくこなせるので人望もある。クラス、行事のグループや団、部活動のリーダーとして責任を持って取り組めます。どんどん任せるべきでしょう。保護者も協力してくれます。部費やクラスTシャツ代、文化祭の衣装代、卒業旅行のお金なども援助してくれるのがこの層の保護者。安心して良いでしょう。

ただし、数名の生徒にそのリーダー役を集中してしまうことのないようにします。いろんな生徒にリーダー役、サブリーダー役、それ以外の立場の役をやらせるよう工夫して経験値を積み重ねられるようにしましょう。


◯自分より勉強でもスポーツでも、「自分よりできる者の存在を認知」している。だからコンプレックスも確実にある。叶わない自分の力を把握しているゆえに、ヒエラルキーのトップに立とうとは思っていない。

が、その部分は「時に爆発する」。鬱積したものが破裂したり、どうにもならなくなって泣いたりした時に。

だから、海外など知らない世界に出掛けて行って自分の経験値や研修になることもやろうとする。

  →  コンプレックスがあることは必ずしもマイナスに捉えることではありません。この層の生徒はより上位層の生徒からいろんなことを学ぶ力があります。感情が爆発しても基本ほっておいてまず大丈夫。(ひどい時は保護者へ一本報告しておきます。)逆に学業面の行き詰まりや友人との人間関係上の問題が起こりそうな表情については、こちら側が読み取れるアンテナは持っておきたい。保健室の養護教諭、スクールカウンセラー、彼らにとって話しやすい近しい先生がいることをクラスや学年集会などで伝えておく。「学校にはあなたたちを守ってくれる、悩みを聞いてくれる先生はいるんだ」ということを彼らに伝えておきましょう。


  偏差値70くらい  


◯記憶力がいい。一度学んだことはまず覚えている。忘れていたとしても、学習したことは覚えている。自分を客観視できる。冷静。スマホはツールとして活用。依存になることはない。

行事も好きでその価値を認めている。積極的に関わる。人に対しては温和で優しい者が多い。友人や周囲の抱えている問題にも真剣に向き合える。

テスト、受験が目の前になくても、日常的に学習に「集中して取り組む」ことができる。得意科目は複数ある。突き抜けている科目も複数ある。苦手科目は有るが、それでも平均レベルより下には落ちない。そのくらいには成績を止めることができる。受験の参考書やアプリは「受験というゲームの攻略本」として捉えられるほど余裕がある。

計画的にコツコツとしかも確実に積み重ねて目に見えるものを作り上げることができる。

「上から押し付けられる」のは苦手。「嫌悪感」を出す。自分や近しい友人たちと独創性を求め取り組み、成就感を得ることに価値を見出すことができる。勉強のほか学校行事や部活動などでも自律的に集団活動の中心になることができる。先生や親も期待しているし、その期待に応えることができる。

  →  いわゆる優等生。勉強以外のことでも学生として今何をすべきかわかっているので、文化祭などでも長期間にわたって準備して完成度にこだわるはず。「口を出さないからな。君たちでやっごらん」でもできてしまうのですが、ここはやはり先生として見てきて今までの良かった例やその逆の上手くいかなかった例を上げておきます。ほのめかす程度でもいい。なぜなら彼らは独自性があるものにこだわって取り組むはずだから。プロレベルや芸術系の大学レベルの話、センスに秀でた過去の例も喜びます。大好物です。彼ら自身がそうなりたいから。笑    ネタを準備しておきましょう。


◯就職する、仕事をする、大人になる、ということは、お金稼ぎもあるが「社会貢献だ」とわかっていたりする。

本人に向いているかどうかは置いておいて、小さい頃から親に習い事を複数させられる。特に英語、ピアノ。親の趣味からだとピアノ以外の楽器や絵画。で、やってみた後に自分の力を見切ることもできる。

跡継ぎとして期待されていない家系だと医歯薬系の学部を目指していてもそこまで本気でなく「東京大学なら親も納得するか」と方向転換したりする。親も折れる。しっかりと自分を持っている。自分は自分。他人は他人。揺るがない。ゆえに「自己中心的行動も見られ集団行動が苦手な者」もクラスに一定数はいる。「自分の夢や進路の準備=自己実現」のために、所属する部活が集団スポーツで顧問の先生や友人がいるどんなに引き止めようと試みても「躊躇なく」退部し辞めていく。そして後ろ髪を引かれることもなく、サッサと切り替えてそのための準備に勤しむ。笑

日常生活ではあまり大きな声を出して笑ったりしない。時に周囲に冷たい人間と見られたりする。しかし、部活動や学校行事で盛り上がる時に、かなり「はち切れる」のでそのギャップに驚かれる。笑

実はふだんは蓋をしているが、絶対に人に言えない部分や過去の経験があり、それには触れないように生きていく。心の闇を周囲に漏らさないのはプライドでもあるが、それよりもふだん違う位置から自分を俯瞰して見ているため、振り切れてしまっているその自分を見たくない。精神的に病んでしまう場合もある。

  →  信頼と信用のもと、彼らに「責任も」預けることが大切です。そのことは当然、我々教員自身の「責任」にもつながっていますが。集団行動より自分を優先する時があるので、あらかじめ線引きをさせる。ルール決めもさせる。

また学校という枠を超えた事にも挑戦できる(数学オリンピックや英語ディベート大会など)のでその機会を作ってやる。知的好奇心をくすぐる。好奇心のアンテナに引っかかると答えの無いものでも、彼らはモチベーション下がらずに努力できるので、それを先生は知識や情報として提示しましょう。人生の先輩として見えていて、なおかつ足りないものを示唆してやる。彼らは面白いように取り組み、勝手に意見や主張を戦わせるはずです。


  偏差値75以上  


◯勉強は日常。知識欲がある。小さな頃から知的好奇心が旺盛。やらされてやるのでなく自分から取り組める。学習したことは基本的に「一回で覚えて忘れない」。あまり無いが、アウトプットのうっかりミスを笑って振り返り、原因分析できる。ある意味で人間離れしている。「宇宙人」。基本は冷静。だが、自分なりの発見があった時にはひとり興奮する。

「声を出して笑わない」。人付き合いが淡白。冷たく見られることがある。しかし本人はまったく気にしていない。常に我が道を行く。

協調性に欠けるときがある。近しい友人と継続して積み重ねていくのはなんとかできるが、不特定多数の人間に合わせるということが苦手。

学校や教員、親とも揉めたりすることはない。世話になっても過剰な期待はしない。そして周囲の関係者を上手に「活用」できる自身の力がある。

大学で勉強したいことが専門的にある。将来的に研究していきたいことがある。自分の時間に新書や専門書を読み、筆者の意見を踏まえてさらに自分の意見も持つことができる。世の中の真理を掴みたいと思っている。それを踏まえて生活し学んでいる。エポックメーキングな技術を発見してさらに開発する。

物事に没頭したり本当に集中すると「時間の概念」が無くなる。親や先生が遮ろうとしても、迷惑を掛けることになっても、その好奇心が強すぎて「時間を守れず」気が済むまでやり続ける。

→  「天才」と呼ばれる人はこの層から生まれてくることが多いと思います。(私見ですが、後は偏差値45以下の層からだと思います。やっぱり我々の「規格外」なんだと思います。)

我々教員は淡々と、彼らのやるべきこと=普遍的でかつ高いハードルの課題を、授業内外で与えればいいと思います。ゆえに、こちらの準備は時間を掛けて綻びなくしておくことが求められます。将来、当たり前のように社会のトップに立つ人材や芸術家などがほとんどなので、専門の枠に収まらない「普遍的なこと」を伝えます。

また彼らはもともと子供っぽい部分はあまり無いので「抽象的なこと」を具体化して実現できるようなことを、そのテーマとともに与えてやる。とんでもないアイディアが出てくるはずです。(知的な発見やハイレベルの到達点にたどり着いた時は子どもっぽくなり、ニヤリとします。)それを披露できる場を設けてあげましょう。


  終わりに  


以上、3回に分けて生徒の特徴を学力という物差しをもとに考察、分析し、その対応上のポイントについて助言してきました。しかし、当然子どもたちは「生もの」です。常にその子どもの「背景」を透かして見ながら、先生方同士が彼ら自身の「現在」の状況を共有しておく。そして我々は目指していく「未来」のため子どもたちに獲得して欲しい力を示唆していけるようにしたいものですね。そのためのテクニックについてはまたあらためて。