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「進路指導で押さえておきたいこと その3」


今回のテーマも前2回に引き続き「進路指導」です。前回は「志望校選びの例年の状況」と「今年の状況」さらにその影響から予想されることについてお話ししました。今回はその続きとなる第3回。特に「志望校選びの際の指導上のポイントやコツ」について具体的に助言していきます。


★  志望校選びの際の指導上のポイント  

(1)各校の出題傾向を押さえる

今年2020年のようにコロナ感染率が失速せず、そうでなくてもインフルエンザや風邪など体調を崩しやすい冬場の環境を考えると、今後も受験生にとっては従来以上に失敗を恐れる受験になると考えられます。チャレンジ校、本命校、すべり止め校を偏差値と受験日程から検討すると思いますが、今年は経済的に厳しいご家庭が増えて、リスクを冒してまでチャレンジしにくくなり安全志向に走りがちになるでしょう。でも、我々は安易に生徒に目標を下げさせず、過去問への取り組みから「自分と相性の良い問題を出題する学校」をまずはきちんと押さえる。そして決定後はできるだけ第一志望を変えさせない指導が必要です。そこを見極めずについつい模試の直近の偏差値や判定結果だけで志望校を選びがちですが、「各学校の出題傾向」を考慮するのは重要なポイントです。実際、高校、大学によって出題される問題には各校それぞれかなり特色があります。受験生に求められている質が高く論理的な思考ができないと解けないタイプ、問題量が多くスピードを求められるタイプ、基本問題を正答率高く答える能力が求められるタイプなど、教員側では過去問を調べ授業で取り上げますが実に多種多様。大学入試においては「共通テスト」初年度の今年度は、出題内容の傾向や難易度がわかりにくい。過去問から独自の出題傾向を確認して受ける独自の一般入試の方が本番で落ち着いて取り組めると思います。経済的に厳しいご家庭が増えている今、受験料を抑えるためにも、受験校の厳選は切実な問題。ギリギリ手の届きそうなチャレンジ校や本命校はもちろん、失敗しないためにもすべり止め校まで「過去問の出題内容の傾向と相性」から選ぶのが実は一番です。

(2)受験方式を再検討する

  高校受験では、公立高校の入試制度では都道府県ごとに決められていますが、学科やコースなどで内申点の傾斜や配点がさまざま。私立校では学校ごとに学力検査の科目数が変わってきます。大別すると以下の3種類でしょうか。◯推薦選抜……中学校長の推薦で受験する方式と校長の推薦が不要な自己推薦方式があります。特色選抜……面接、作文、小論文、またはスポーツなど実技検査がある方式。◯一般選抜……ほとんどの受験者が受ける一般入試。(いくつかの学校には2回目の受験の機会がある「後期選抜・二次選抜」などもあります。)

  大学受験では、◯共通テスト利用方式、◯学外試験会場方式、◯全学部日程入試方式、◯試験日自由選択方式、◯学内併願方式などに加え、◯総合型選抜(旧AO入試)、などのほか、募集人員が少なく倍率も上がるが、◯3科目受験して最高得点の1科目で合否判定する方式、◯高得点の科目の配点比率が高くしてもらえる方式、◯一般的な入試科目数より少ない2科目あるいは1科目で受験できる方式も大学によってはあります。上述したように現在では苦手科目のハンディキャップを軽減し得意科目のみで勝負する大学受験の方式も少なくない。いずれにせよ、自分の得意な土俵で戦うことが有利になることは間違いないので、受験の選択肢として是非とも検討すべきでしょう。

(3)ストーリーを作る

中学生も高校生も二年次は「中だるみの2年生」と呼ばれます。3学期ともなると受験産業のはやり言葉である「3年0学期」。しかし、私自身はその前の2年生の2学期を「3年マイナス1学期」と称して、学習習慣と生活習慣の見直しに取り組んでいます。いわゆる学習計画を長期と短期で立てます。そのためにホームルームで生徒個々人に「目標達成シート」を作らせます。「目標達成シート」は、①受験校を第1志望から3校、大学の場合は学部・学科、各偏差値、(なおこの時点では第1志望校は強気で行かせます!)②受験科目と現在の自分の弱点とそれを克服する方法、③その各科目の現在の偏差値以後3ヶ月ごとの偏差値受験時の偏差値を矢印と枠で明記して②の欄の横に実際の数字で記入させる、④月曜から日曜までの学校後の家庭や塾・予備校での各科目の時間割を作らせ、その科目ごとの問題集とページ数、やるべき内容などを書かせます。何の科目を「武器」とするか考えさせます。⑤できたら短期と中期の各科目の分野別習得内容も目標として書かせたいものです。

我々の勤務時間同様、子どもたちも学校の時間割や定期考査の期間あるいは習いごとでも決まった時間がないとなかなか習慣化しないもの。「家庭学習時間割」と「受験までの逆算スケジュール」とで受験までのストーリーを作らせ、ロールプレイングゲームの主人公のように自ら武器ツールをいつの時期までに得て戦うか設定させます。

また、勉強の取り組み方は受験のための学習ということで割り切り、アウトプット中心の方法で。スポーツで言うところの「MーTーM」つまり「マッチトレーニングマッチ(試合ー練習ー試合)」まさに実戦中心。ゲームで育った世代の子どもたち。インプットは最低限教科書レベルまでで、どんどん問題に取り組む。解答解説後に再び問題をやることでパターンを刷り込み、それにより知識の定着を目指すように指導します。


★  アドバイスの実際  

受験に不安な気持ちになるのは、コロナ禍の状況であろうとそうでなかろうと中学生や高校生であれば当然のことです。調べものをするのを除きスマホ依存になる、生活習慣が乱れてだらけてしまい勉強が疎かになるなどネガティブな因子にもなりますが、密にならないようひとりで学習するからこそ自分と向き合えます。先生方はその際に頭に残るアドバイスをしてあげましょう。

(例1)例えば「受験というもの」の考え方。

たしかに子どもたちにとっては大きなハードルでありひとりで立ち向かうしかないものです。そして人生の岐路の一つですが、失敗したとしても命まで取られるわけじゃない。ほとんどの人がその経験を乗り越えているんだよ、と言った話をしてストレスを少しでも和らげてあげると良いでしょう。

(例2)例えば「行き詰まった時の勉強法」。

同じ内容を勉強するとしても学習する「環境」を変えてみる。学校の空き教室から近隣の図書館へ。塾の自習室から自宅のリビングへ。スマホを触らずにいられる環境が良いと思われます。受験勉強では時間ばかりでなく効率も大切。その効率を向上させることのできる環境はもちろん大事です。新鮮な気持ちで取り組める場を自分の中でいくつも作っておくと良いですね。

(例3)例えば「苦手科目の勉強の仕方」。

先生にその都度質問するのがたいへんで勉強が停滞するくらいなら、周囲の友人に相談する。勉強法についても身近な説明の上手な友人から聞く。また苦手科目のテストで高得点を取るのが厳しくても、優しいレベルの問題や基本問題の正答率の高い問題でミスなく確実に点を取るための勉強方法を聞いておく。担当の先生が答えにくく対応しにくいことも友達なら教えてくれますよね。また頻出する問題の質とよくある正解例なども、覚えておくと良い。本人に応用力がなくても近道できる「傾向」を押さえたり、それをつかむ「コツ」などを身に付けられると得をするときもあります。


(終わりに)

上記のようなことを教え子の例、他校の生徒の情報、あるいは先生ご自身の体験談などをベースにアドバイスします。成功例ばかりでなく失敗談も話してあげると良いでしょう。最近では先生の立場から見ても興味深く有効な中学生や高校生向けの受験対策サイトも複数あります。こちらも先生の話の種として是非参考にしてみてはいかがでしょうか。

また生徒が受験に失敗して、結果として納得いかないすべり止め校に進学することになることも当然ありますよね。そんな時は生徒の立場に寄り添って慰めるよりも、あっけらかんと「なんだ、この学校も良い学校じゃないか。お前の心の持ち方だよ。ここは全然評判悪くないから、お前頑張って来いよ」と前向きに話してあげると良いでしょう。なんらかの意味があって縁があって、その学校へ行く。そう考えれば、その子どもの気持ちを後ろ向きなままにしない、少しでも前向きにする助言をする。それも先生の仕事のひとつではないでしょうか。